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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)343号 判決

原告 後藤秀生 外一名

被告 東京都知事

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

1  被告が昭和五二年七月二九日付でした町区域の設定及び変更についての東京都告示第六四六号のうち、別紙記載(一)ないし(七)の部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外調布市長は、地方自治法二六〇条一項の規定により、調布市議会の議決を経て、調布市の町区域である上石原、下石原、小島町、上布田町、下布田町、布田五丁目の各一部の区域を廃止し、その区域をもつて新たに多摩川一丁目ないし七丁目を画し、かつ、右上布田町の一部の区域を染地二丁目に編入する旨の決定(以下「本件決定」という。)をし、これを被告に届け出た。被告は、同条二項の規定により、昭和五二年七月二九日付東京都告示第六四六号(以下「本件告示」という。)をもつてこれを告示し、右決定は昭和五二年一〇月一日からその効力を生じた。

2  別紙記載の土地(以下「本件土地」という。)は、原告らが共有し又は原告後藤秀生が単独で所有しているものであるが、これらはいずれも本件告示の対象とされた。

3  右の新たな町区域の南側は多摩川の左岸堤防によつて画されているが、本件決定及び本件告示においては、右堤防の位置を真実の位置よりも約六〇メートル北側の地番上にあるものと誤認しているため、本件土地は堤防の外側にあるにもかかわらず、その一部が堤防の内側にあるものとして扱われることになつた。右誤りは、本件土地の所有権をめぐつて原告らと国、調布市らとの間に訴訟事件が係属中であるので、その判決前に原告らの権利を否定してしまうためにあえて行なわれたものであり、これによつて原告らは右土地を売却し又はこれに担保権の設定をしようとしても拒絶される等の不利益を被つている。

4  よつて、原告らは本件告示の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

請求原因1の事実は認めるが、本件訴えは、次のとおり不適法であるから却下されるべきである。

1  本件告示は、本件町区域の廃止等の決定権者である訴外調布市長がした決定を伝達しその効力を発生させるものにすぎず、また、右決定が昭和五二年一〇月一日からその効力を生じる旨を宣言した一種の立法的行為であつて、それ自体により住民の権利義務に直接影響を及ぼすものではない。したがつて、本件告示は抗告訴訟の対象となる処分とはいえない。

2  町の区域及びその名称は単に地域特定のためのものであり、個人が特定の町名を自己の所有地等の表示に用いることによる利益不利益は、通常当該土地を含む区域に現にその特定の名称が付されていることから生じる事実上のものにすぎず、これをみだりに変更されないという利益が法的に保障されているものではない。原告らは、本件告示が多摩川堤防の所在地番を誤認しているため、原告らの所有地に対する権利が侵害されていると主張するが、町区域の廃止、新設等によりその対象地域内にある土地の所有関係、所在場所、現状等に変動が生じるはずはない。したがつて、原告らには、本件告示の取消しを求める訴えの利益がない。

理由

一  訴外調布市長が、地方自治法二六〇条一項の規定により、調布市議会の議決を経て、調布市の町区域である上石原、下石原、小島町、上布田町、下布田町、布田五丁目の各一部の区域を廃止し、その区域をもつて新たに多摩川一丁目ないし七丁目を画し、かつ、右上布田町の一部の区域を染地二丁目に編入する旨の本件決定をし、これを被告に届け出たこと、被告が同条二項の規定により本件告示をもつてこれを告示し、右決定が昭和五二年一〇月一日からその効力を生じたことは、当事者間に争いがない。

二  原告らが本件告示の取消しを求める訴えの利益を有するかどうかについて判断する。

本件告示は、町区域を廃止、新設、変更した本件決定の効力を生じさせたものであるところ(同条三項)、町区域は地理的区画単位であるにとどまり、個人の所有地等が特定の町区域内にあることによる利益不利益は、通常、当該土地を含む区域が特定の町区域に画されていることから生じる事実上のものであるにすぎないのであつて、当該区域内の土地に所有権等を有する者であるからといつて、直ちに現在の町区域をみだりに変更されないという利益が法的に保障されているものと解すべき根拠は存しない。

原告らは、本件告示が新たな町区域の南側を画する多摩川左岸堤防の所在地番を誤認しているため、本件土地に対する原告らの所有権等が侵害されていると主張するが、町区域の廃止、新設、変更は従来の町区域を新たな地理的区画単位に区分し直すものにすぎず、区域内の土地の客観的な位置関係、所有関係、現状等に変動を生じさせるものでないことは明らかであつて、本件においても、右堤防の所在位置や本件土地が堤防の外側にあるか内側にあるか等が本件決定又は本件告示により定められているわけではない。それらの点は、客観的事実に基づき別途に確定されるべきことであり、それについて本件告示はなんらの効果も及ぼすものではない。そして、他に本件告示によつて直接原告らの法的利益が侵害されていることを認めうる資料はない。

それゆえ、原告らには右告示の取消しを求める訴えの利益がないものといわなければならない。

三  よつて、本件訴えは不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 中根勝士 菊池洋一)

別紙〈省略〉

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